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熱海の温泉

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この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第161回

斎藤智

麻美は、一軒のこぎれいなホテルの中に入った。

「お風呂に入らせてもらうことできますか?」

エントランスにある受付でホテルマンに聞いた。

「入浴のみですよね、大丈夫ですよ」

ホテルマンは、飛びっきりの笑顔で元気に答えた。

「OKですって!」

麻美が表に向かって呼びかけると、表からTシャツ、ショーパンのちょっと小汚い連中がぞろぞろと歩いて入って来た。

ホテルマンは、皆を温泉のある入浴室まで丁寧に案内してくれた。

「それでは、ごゆっくりお楽しみください」

ホテルマンは、お風呂の前まで案内すると、フロントに戻って行った。

「今日は、一人で寂しくなくて良かったね」

麻美は、隆に言った。

いつもだと、クルーが女性ばかりなので、クルージングに行くと皆、女性用の浴室に行ってしまうので、隆一人だけでの入浴になってしまうのだ。

今日は、マリオネットの男性たちも一緒なので、一人だけにならずに済むのだった。

「気持ちいい♪」

温泉の中に入ると、ルリ子は思わずため息をついた。

このホテルの温泉は、沸かしではなく、本物の温泉が引かれているようだ。お風呂から自然の湯気が上っていて、お湯に浸かると全身が癒されていく。

「もう出てきたの!?」

温泉ですっかりいい気持ちになって、新しいジーンズに着替えて出てきた麻美は、既に表で涼んでいた隆の姿を発見して言った。

「うん。いちおう、ちゃんとお風呂の中も入ってきたよ」

せっかく一人じゃなくて今日は寂しくなくて良かったね、と言ったのに、すずめの行水のように、あっという間に出てきてしまっている隆に、麻美は呆れてしまった。

「洋子たちは?」

「まだ、中で入っているわ」

「長いな」

隆が言った。

「隆が短すぎるのよ」

麻美は、一緒に出てきた佳代と売店に行くと、アイスクリームを買ってきてなめている。

「洋子たち、まだ出て来ないのなら、俺もまた入って来ようかな」

隆は立ち上がった。

「うん。そうしなさいよ」

麻美は、マッサージチェアに佳代と一緒に座りながら、隆に返事した。

ルリ子は、お風呂から上がると白に赤い花柄の浴衣に着替えて出てきた。

「かわいい!」

鏡の前でブラッシングしていた香織がルリ子の浴衣姿を見て叫んだ。

「かわいいでしょ。ユニクロで買ったの」

ルリ子は、ぐるっと一周して自分の全身を香織に見せた。

洋子もお風呂から上がってくると、ルリ子の浴衣姿を褒めた。

洋子も、香織の横に行くと、自分の長い髪をドライヤーで乾かし始めた。

洋子も、香織も、髪が長いので乾かすのは大変だ。

一番最後にお風呂から上がって来た雪は、バスタオルで体をさっと拭くと、ベリーショートの髪もバスタオルで一緒にさっと拭いて、服を着ると出て行った。

「雪ちゃん、かっこいい」

洋子のドライヤーしている横でおしゃべりしていた美幸は、雪の姿を見て言った。

長身で細長い姿の雪が、化粧っ気もなく、さばさばと男っぽく着こなしている雪の姿は、女の美幸たちにもなんとなくかっこ良く見えた。

船での食事

麻美たちは、お風呂から上がってヨットに戻ってきた。

お風呂からの帰りには、もちろん行きに寄った魚屋さんに寄って魚をもらってくることを忘れていなかった。

「お帰りなさい。お魚できているよ」

麻美たちが風呂上がりに魚屋の前に行くと、魚屋のおじさんのほうから声をかけてくれた。

「皆、お風呂行って来て、ますます美人になってきたね」

魚屋のおじさんは笑っていた。

麻美たちは、おじさんに美人と言われて悪い気はしなかった。

特に、浴衣がかわいいと褒められたルリ子はご機嫌だった。

「ほら、美味しそうに出来ているよ」

ヨットに戻ると、ギャレーで魚屋さんからもらった袋を開いた麻美が皆に見せながら言った。

「本当だ。もう、そのまま焼けばいいだけじゃん」

隆は、麻美の後ろから覗き込んで納得していた。

「隆。こんな感じでいいかな」

デッキで作業していた雪が、パイロットハウスの開いている窓からキャビンの中にいる隆に聞いた。

年上の雪は、最近ではすっかり隆さんではなく隆だった。

隆は、デッキに出ると雪たちのところに行った。

雪と洋子が、デッキでアンカーローラーをばらしていた。

昼間、マリオネットの根がかりしたアンカーを上げるのに使ったので、泥だらけになってしまったのだ。

二人は、それを洗い落としていたのだった。

「ついでに、こっちも洗わない?」

「うん。いいよ」

アンカーローラーに付いた泥だけを洗い落とすつもりだったのだが、雪の提案でウインドラスに貯まっていた埃も洗うことになった。

「まだ、夕食が出来るまで時間もあるしな」

3人は、ウインドラスのフタを取ると、中に貯まっていた埃を掃除し始めた。3人がデッキでウインドラスを掃除している間、キャビンの中では、ほかのメンバーたちは、夕食の準備をしていた。

特に誰が決めたわけではないのだが、自然といつも料理は、麻美が中心となって佳代やルリ子、香織たちがするようになっていた。

あまり料理が得意でない、家事とかよりも体を動かすことの好きな雪は、料理に参加するというよりは、停泊中は船の装備を整備したりするのを担当していた。

皆がそれぞれに得意分野を活かしていた。

洋子は、どちらかというと体を動かすことよりも、麻美のようにお料理とかが得意だったが、ラッコで雪の次にわりかしヨットの装備とかセイリングが上手になっていたので、雪が整備を始めると、雪から一番最初に声をかけられて、よく雪と一緒に整備する側に入っていた。

洋子も、別に整備する側にされることは嫌ではなかった。

隆も、整備する側だった。隆とは、いつも仲が良くておしゃべりしているので、隆と一緒に作業できることもあったかもしれない。

「いい匂いがしてきた」

パイロットハウスの開いている窓から夕食のいい匂いがしてきた。

「お腹が鳴った…」

美幸が言った。

隆たちがデッキで作業していると、隣のヨットのマリオネットのクルーの美幸がやって来て、いつの間にか作業を手伝い始めていたのだった。

「ここまで終わったら、中に入って食事にしような」

隆が美幸に言った。

夕食は、いつもマリオネットの人たちもラッコのキャビンにやって来て、一緒に食事しているのだった。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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