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夏のクルージングの前に

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この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第192回

斎藤智

隆たちは、今度の週末に千葉県の保田漁港までクルージングをすることになった。

「私、まだ一度もヨットで泊まりのクルージング行ったことない」

そう言ったのは、今年から横浜マリーナのヨット教室でヨットを始めたばかりの美幸だった。

「それじゃ、夏休みは楽しみだろう」

隆は言った。

「毎年夏は、ラッコとマリオネットは一緒にどこかにクルージングに行っているから。今年の夏休みのクルージングは、式根島と伊豆半島を周って来る予定だから」

「楽しみだけど、なんか初めてで不安もある」

美幸のその言葉が、今週末に千葉に行くことになったきっかけだった。

「それじゃ、夏休みに長いクルージングに出かける前に、小さなクルージングで慣れておきましょうよ」

というわけで、千葉まで一泊のクルージングをすることになったのだ。

土曜日の朝に横浜マリーナに集まり、そのままヨットを出して、千葉に入港する。

その後、そこで一泊して、次の日の朝、横浜マリーナに戻ってこようというのだ。

「土曜の朝は、横浜マリーナを早めに出航しよう」

ということになった。

横浜マリーナは、警備やICカードによる入退場は24時間可能なのだが、基本的に一般の職員の出勤は、夜勤時を除いて昼間だけだった。

当然、ヨット、ボートを上げ下げするクレーンの稼働も昼間のみだ。

「マリーナの職員にお願いして、ヨットを下ろしておいてもらおう」

事前に、横浜マリーナスタッフにお願いして、土曜日は朝早く出かけるので、金曜日のうちにヨット2隻を艇庫から海上に下ろしておいてもらった。

「VIP待遇だね」

麻美は、横浜マリーナに行くと、もう既に海上に下ろされている自分たちのヨットを見て言った。

「VIPか…」

「らしくないけどね」

麻美は、隆のもう長いこと着古したジーンズを見て言った。

「たしかに、ちょっとひどいかも…」

洋子も、隆のジーンズの穴の開いた部分に指を入れてみながら同意した。

「いいだろ。物持ちが良くて、大事にしていて」

「大事にするのは、えらいけど。それとは別問題な気が…。やっぱ、隆は、だれかお嫁さんをもらったほうがいいかもね」

麻美は、隆に言った。

「さあ、出そうか」

皆は、出航準備を終えると、千葉を目指してヨットを出した。

マリオネットも、ラッコの後に続いて、横浜マリーナを出航した。

マリオネットには、オーナーの中野さん以外に美幸も乗っていた。

「じゃあね」

マリオネットの艇上から、こちらに向かって美幸が手を振っている。

ルリ子や佳代が、それに気付いて手を振り返した。

「美幸ちゃん、こっちのヨットに乗りたいんじゃないのかな」

「美幸は、マリオネットのクルーだから」

「それはそうだけど。美幸ちゃん一人だけ向こうで寂しいんだろうなって思って…」

麻美が言った。

「今年の秋に、ヨット教室を卒業したら、マリオネットじゃなくて、こっちのヨットに乗れるようになるでしょう?」

洋子が隆に聞いた。

「それは。もともと美幸は横浜マリーナのヨット教室の配属でマリオネットになっただけだから、ヨット教室卒業後は、好きなヨットに乗れるかもしれないけど、実質はどうなのかな」

隆は、ヨット教室の間にずっと美幸のことを受け入れていたマリオネットのことを考えて答えた。

千葉の海岸

東京湾を横断すると、千葉の沿岸に到着した。

「お昼の準備できたんだけど、もうじき着くだろうから、港に到着してから食べる?」

麻美は、エプロンをしたまま、キャビンから出てきて皆に聞いた。

「あそこらへんって海水浴場なの?」

洋子は、千葉の保田漁港の横にある砂浜を指差して、隆に聞いた。

「そうだよ。泳いでいる人もいっぱいいるじゃん」

「うん、やっぱり泳いでいるんだよね」

洋子は、隆に言われて、改めて泳いでいる人たちの姿を見た。

「いいな。私も泳ぎたい」

ルリ子が言った。

初夏なので、ここのところ東京地方は暑い日が続いていた。

「それじゃ、保田の漁港に入港する前に海水浴場に寄っていこうか」

ラッコの針路を目の前の海水浴場に向けた。

海水浴場の人があまり泳いでいなさそうな所を見つけて、そこでアンカーを落として停泊した。

ラッコが海水浴場に立ち寄ったのを見て、マリオネットも一緒に来た。

アンカーを下ろしたラッコの左舷に、マリオネットは接岸した。

停泊すると、佳代とルリ子がパラソルをキャビンの中から持ってきて、デッキに広げた。

パラソルの下の日陰にテーブルを広げると、お昼ごはんを並べる。

マリオネットのメンバーもやって来て、船の上ではお昼ごはんが始まった。

今日のお昼は、そうめんだった。

「暑いな。水着持ってくればよかった」

隆は、お昼を食べながら言った。

「私、水着ちゃんと持ってきたよ」

ルリ子が言った。

「私も」

佳代も言った。

隆以外の皆は、水着を持ってきていた。

食事が終わると、水着に着替えて、ラッコの船体後部にあるプラットフォームに付いているラダーを下ろして、水の中に入ると泳いでいた。

今日は、麻美までもが、水着に着替えて泳いでいる。

隆は、水着を持ってきていないので、パラソルの下の日陰で皆の泳いでいるのを眺めていた。

洋子も、隆につきあってパラソルの下で話していた。

「洋子は、水着持ってきていないんだ?」

「あるけど」

「それじゃ、泳いでくればいいじゃん」

「いいの。まだそんなに暑くないから」

洋子は答えた。

「洋子の水着姿って、そういえばあんまり見たことないな」

「夏のクルージングでは、たぶん泳ぐから楽しみにしていて」

洋子は言った。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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