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千葉から横浜へ

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この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第46回

斎藤智

昨夜は遅かったので、少し遅めの目覚めとなった。

明日からは普通通りに新しい週が始まり、皆それぞれ会社で仕事があるので、今日は千葉から横浜に帰らなくてはならない。

マリオネットのメンバー達につきあって、昨夜は遅くまで起きていた麻美は、まだ眠かった。それでも、ほかの人たちがお腹を空かしているといけないと思い、誰よりも早く起きて、朝ごはんのあじの開きを焼いていた。キャビンの中は、あじの匂いでいっぱいになっていた。

「美味しそう」

あじの匂いに誘われて、隆が佳代といっしょに起きてきた。

ほかのメンバーたちも起きてきて、麻美の朝ごはんの準備を手伝った。ごはんが炊けた。

多くのヨットでは、ごはんは電気を使う炊飯器ではなく、お釜でガスコンロで炊いている。ラッコでもお米用のお釜があって、それで炊いていた。炊飯器とちがって、おこげが出来たりして、お釜で炊いたごはんは最高だ。

「いつも麻美さん家って、朝はお米なんですか?」

「そんなことないわよ。うちも朝はパンのほうが多いかな。でも、クルージングに出ると、せっかく新鮮な魚とかあるし、味噌汁にお米のほうが美味しいのかなって思って…」

麻美は、炊きあがったお米を、皆の分だけお椀に盛って、テーブルに出した。その横のテーブルでは、ルリ子が味噌汁を盛り付けている。

隆が、引き出しの扉を開けて、中に入っているテレビのスイッチを点けた。朝のニュース番組が始まっていた。

「いただきます!」

皆が、席について出来上がった朝ごはんを食べ始める。

昨日、駅前の魚屋で買ったばかりの新鮮なあじの開きだ。味噌汁の具も、しじみ、はまぐり全て昨日の魚屋で調達したばかりのものだった。

「美味しい!」

「私いつも朝はパンだから、朝からお米って食べられないかなって思っていたけど、美味しくていくらでも食べれてしまいそう」

ルリ子が満足そうに食べながら言った。

「お代わり、まだまだいっぱいあるから食べて」

麻美が言った。

「太ってしまうよ」

「クルージングは食事が美味しいから、クルージングに来たらどんどん食べて太りな。ダイエットは普段の日にすればいいんだから」

隆がルリ子に言った。

「普段の日もダイエットできずに食べすぎちゃうのよね」

ルリ子は、苦笑しながらも二杯目のごはんを食べていた。

カニの味噌汁

横浜への出航は、9時に決まった。

出航の9時までには、まだ少し時間があった。

麻美と佳代、ルリ子は、ヨットが停まっている岸壁でぶらぶらしていた。岸壁の上側では、親子連れがやって来て、日曜日の朝の釣りを楽しんでいた。小さなハゼやイワシが釣れているみたいだ。

「あ、カニがいる!」

岸壁の岩の隙間を歩いているカニを見つけて、佳代は叫んだ。

カニたちは、岩の間から出たり、入ったりしていた。ルリ子は、ポンツーンの脇のところに落ちていた穴の開いた網を拾って、それでカニを捕まえようとしていた。

「捕まえたよ!」

ルリ子は、網の中に入ったカニを手に持って、麻美に見せた。

麻美は、穴の開いた網でカニを捕まえたルリ子をすごいって思っていたが、佳代のほうがもっとすごかった。佳代は、カニに気づかれないように、そっとカニの背後に近付くと、手を伸ばして素手でカニを捕まえていた。

「かわいい!」

ルリ子も、佳代も、捕まえたカニを眺めながら、頭のところを撫でてあげていたが、カニは本当に撫でられて喜んでいるのかどうかは、微妙なところだった。

「お!カニじゃん」

洋子、雪といっしょに港の向こうまで散歩に行っていた隆が戻って来て、佳代の持っているカニを見つけて言った。

「味噌汁にして食べるのか?」

隆は、佳代に言った。

佳代は、可愛らしいカニの顔を見ていたら、食べてしまうのは可哀そうに思っていた。

「食べられるの?」

ルリ子は、自分の取ったカニを見ながら、隆に聞いた。

よくスーパーで売っているカニは、真っ赤な色をしていて美味しそうだったが、今、目の前にいるルリ子の取ったカニは、茶色っぽい緑色をしていて、どうみても美味しそうではない。サイズだってルリ子の手よりもはるかに小さいサイズだ。

「食べられるさ」

隆は、そう言うとカニをルリ子の手から取ると、持ったまま船内のギャレーに入った。棚から大きな鍋を取りだすと、そこに水を入れて沸かす。鍋には、特にダシは入れない。カニ自身の体から美味しいダシが出るので必要ないのだ。

お湯が沸くと、隆は、その中にルリ子のカニを投入する。お鍋の中に入ったカニは、さっきまでの緑色の体が、真っ赤になっていた。ルリ子は、カニって茹でると真っ赤になるなんて初めて知った。

「そっちのカニはどうするの?茹でるのか?」

隆は、カニを抱えている佳代に聞いた。

「佳代ちゃんのは、可哀そうだから逃がしてあげようか」

佳代がずっと大事そうに取ったカニを抱えていたのを見ていたので、麻美が代わりに答えた。

佳代は、自分の持っていたカニも味噌汁にしてもらおうと隆に渡した。ルリ子のカニがお湯の中で真っ赤になって気持ちよさそうな顔をしていたので、味噌汁になるのも悪くないかなと思ったのだった。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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