この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第29回
斎藤智
今日は、初夏で快晴だった。
この日は、クラブレースの日だった。
横浜マリーナでは、同じマリーナに置いているヨット同士でレースを行って、各ヨット同士の親善を深めている。同じマリーナのクラブ艇同士がレースを行うので、クラブレースだ。
横浜マリーナのクラブレースは、月に一回のペースで、年間にして合計8回、レースが行われる。各レースでの順位を合計して、一番になったヨットには、その年の総合優勝艇として、『横浜マリーナ特製優勝カップ』を贈呈して、年間総合優勝艇として表彰される。ヨットレースが好きなヨットの各オーナー、クルーたち乗員は毎年、優勝カップを目指し、ヨットレースの練習に必死になっている。
「今日は、賑やかですね」
クラブレース当日の朝、マリーナにやって来た洋子は、麻美に言った。
その日の朝は、今年のクラブレースの第一回目ということで、クラブレースに参加するヨットの乗員たちで、横浜マリーナはいつもの日曜日よりも人が集まっていて賑やかだったのだ。
「うちのヨットもレースに参加するんですか?」
ルリ子が隆に聞いた。
隆は、首を横に振って参加しないと答えた。
隆のヨット、ナウティキャットは、内装の造りは、木部を多用していて、ほかのヨットよりも豪華だったが、それだけ船の重量が重く、セイリングをすると、ほかのヨットよりもスピードが出ずに遅かった。クラブレースに参加したところで、隆のヨットでは、レースには勝ち目がなかった。
「参加しても勝てないとは思うけど、レースには参加してみたいか?」
隆は、生徒たち皆に聞いた。
生徒たちは、ヨットに乗るようになってから1か月ぐらい経って、少しずつだがヨットの乗り方、操船方法もわかってきているみたいなので、クラブレースに参加してみて、自分たちの実力を確かめてみたいのではないかと思い、質問したのだった。
生徒たちの返事は、特にレースには参加してみたいって感じでもなかったので、海上でほかのヨットたちが参加するレースを少し観戦してから、いつも通りにデークルージングを楽しもうということになった。
「それでは、出航の準備をしようか」
隆は、ほかの生徒たち皆と艇庫のヨットの上に乗って、しまってあったセイルを出したり、ロープをほどいたり、出航の準備を始めた。
1か月前だったら皆、まだロープの結び方もわからず、隆が教えながらの出航準備だったので、実質、隆が一人で全部の出航準備をしているようなものだった。
それが今は皆も、だいぶヨットの事がわかってきたため、前のセイル、真ん中のセイル、後ろのセイルとそれぞれに担当ごとに別れて分担して出航準備できるようになっていた。
皆は、出航準備に夢中になっていたので誰も気づかなかったが、出航準備の途中で、麻美がどこかにいなくなっていた。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。