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お姉さんのヨット

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この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第144回

斎藤智

横浜マリーナのヨット教室では、本日の全講義を終えて、生徒たちの配艇が始まっていた。

午前中の座学と午後の実習講義を終えて、これで横浜マリーナのスタッフが先生として教えてくれる授業は、すべて終了らしい。

あとは、生徒たちは、横浜マリーナに停めているヨットのどれかに数人ずつ別れて配艇されて、そこでそのヨットのオーナーの方に、実際にヨットを操船しながら教えてもらえるらしかった。

これからヨット教室の各生徒の配艇ということで、生徒の配艇を希望しているヨットのオーナーさんは、生徒を迎えに教室にやって来ていた。

「あら、隆」

麻美は、ラッコの配艇で生徒のことを迎えに来た隆に声をかけた。

「おお、午後の授業でロープワークを教える先生をしていたんだって?」

「そう。受付の麻里ちゃんに頼まれちゃってね」

麻美は、答えた。

「隆は何しに来たの?」

「え、生徒を一人とるんだろう。その生徒を迎えに来たんだよ」

「配艇されたら、私がヨットに連れていくからいいわよ」

隆は、麻美に言われて、生徒のことは麻美に任せて、ヨットに戻った。

「私は、どのヨットに乗ることになるんだろう?」

香織は、壇上の先生に名前を呼ばれて、呼ばれた生徒が前に出て、ヨットに振り分けられて行くのを見ながら思っていた。

「どんなヨットになるのかな…。あの白いヨットがすっきりした形できれいでかっこいいな。でも、あっちの茶色っぽいのも、クラシックな感じがしていいな」

香織は、教室の窓から見える海に浮かんでいるヨットの姿を眺めながら、考えていた。

「次、マリオネットさん!」

壇上の先生が読み上げて、顔じゅうひげだらけの小太りのおじさんが、教室の前に進み出た。

「杉山さん、松尾さん、海路さん、増尾さん、田中さん」

先生は、マリオネットに配艇される生徒の名前を呼んだ。

呼ばれた生徒たちは、大声で返事して教室の前に出る。

生徒たちは、そこで自分たちが配艇されるヨットのオーナーさんと初対面となって、その初めてお会いしたオーナーに案内されて、それぞれのヨットに向かっていた。

「杉さん、杉香織さん!」

窓の外を眺めていた香織は、先生に自分の名前を呼ばれて、あわてて返事して立ち上がった。

「はい!」

教室の前に出ると、そこには、さっき香織にロープの結び方を教えてくれた優しいお姉さんが立っていた。

「あ、お姉さん」

香織は、お姉さんに気づいて言った。

「こんにちは。あなたがうちのヨットに配艇されて嬉しいわ。宜しくね」

そのお姉さんは、香織に言った。

「あ、香織です。こちらこそ宜しくお願いします。お姉さんのヨットでなんか安心しました」

香織は答えた。

「私、麻美っていいます」

「あの、お姉さん、麻美さんのヨットってなんていう名前なんですか」

「ラッコよ。さっき、先生から聞かなかった?」

「窓の外を見ていて、聞きそびれちゃった」

「あらら」

麻美は、香織から聞いて優しい笑顔で笑った。

香織は、この麻美さんの優しい笑顔をみて、お姉さんのヨットに配艇になって良かったと思っていた。

新しいクルー

麻美は、香織を連れて横浜マリーナのポンツーンを歩いていた。

「揺れるし、ときどき穴が開いているところがあるから気をつけてね」

はじめてヨット、マリーナに来るであろう香織のことを気遣って、麻美が声をかけた。

「はい、穴開いているんですね」

香織は、自分が歩いている足元のポンツーンを見ながら言った。

「全部きちんとつながっていれば歩きやすくて良いんだけど、つなぎ目のところがどうしても穴があるのよね。隆の話だと、ぴったしくっついていたら、波が来たときとかに、逃げがなくなってしまうとか言うんだけど、やっぱ歩く側にしてみたら、穴があると歩きにくいわよね」

「隆?」

「うん。今、船に行ったら紹介するけど、隆っていうのは、うちのヨットの船長さん」

麻美が答えた。

「普段はね、うちのヨットは、陸に上げて、陸上に見えるあの赤い小屋の中に保管してあるんだけど、今日は、午前中に少しヨットを出してきて戻って来たところだから、まだここに停めてあるのよ」

麻美は、香織に説明した。

「このヨットよ。海に落ちないように気をつけて乗ってね」

麻美は、ライフラインの一部を外して、香織が乗りやすいようにしてくれた。

「すごい!マストがほかの船よりも多い」

香織は、麻美の案内してくれたヨットに乗りながら答えた。

「多いって言っても一本だけでしょう。ほかのヨットは、マスト一本だけど、うちのは、二本あるの。一本マストのヨットがスループで、二本マストのはケッチって呼ぶらしいのよ」

麻美が説明した。

「やっぱり一本しかないヨットよりも、二本あるほうがセイルもいっぱいだから、早く走るんですか?」

「たぶん、そうなのかな。でも、うちのヨットは、ほかの横浜マリーナのヨットと一緒に走っても、あんまり早くないけどね」

麻美は答えた。

「遅いのは、乗組員の腕が良くないのかもしれないわね」

麻美は笑ってみせた。

二人は、ヨットの入り口からキャビンの中に入った。

「こんにちは。香織ちゃんっていうのよ」

麻美が、キャビンの中にいた皆に、香織のことを紹介した。

「こんにちは」

キャビンの中にいたのは、隆を除いて皆、女性ばかりだった。

優しそうな仲間ばかりだったので、香織は安心できた。

「うちのヨットって、ほかのヨットよりもマスト、セイルが多いから本当は早く走るのかな?」

麻美は、さっき香織に聞かれたことを隆に聞いた。

「そうじゃないよ。うちのが、マスト二本なのは、セイル二枚にしてその分、マストの高さを低くして、小さなセイルで操船しやすくしてあるだけだよ」

隆は、答えた。

「なんだ、そうなんだ!マストが多いけど、横浜マリーナのヨットの中で、うちのヨットがあんまり早くないのは、私たち乗組員の腕がまだまだなのかと思ってた」

麻美が答えた。

「そんなことも、まだわかっていなかったのか?麻美もまだまだだな」

隆は、麻美の質問に呆れていた。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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