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マザー牧場

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この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第135回

斎藤智

麻美は、ジーンズにトップスはブラウス、カーディガンで少しおしゃれしてから船を降りた。

「麻美ちゃん、かわいい!」

ルリ子が船を降りて、麻美の姿を見て言った。

「え、何が?」

麻美がきょろきょろしながら聞くと、ルリ子は、麻美のトップスを指さした。

「これ?私が高校生のときから着ているブラウスだよ」

麻美は、襟が少しフリルになっている、小さな金ボタンが付いている自分のブラウスを触りながら答えた。

佳代も、船から降りてきた。

さっきまでセイリングの間は、ジーンズだった佳代が、今は赤のショーパンに着替えていた。

雪が降りてきて、最後に隆と洋子が降りてきた。

「あれ、皆ずいぶんおしゃれしているじゃん」

麻美や佳代の格好を見た隆が、自分の潮だらけのジーンズを払いながら言った。

「私も着替えてきたほうがいいかな」

「洋子ちゃんは、可愛いパンツだから着替えなくても良いじゃない。大丈夫よ」

雪が、自分のジーンズの潮を払いながら答えた。

セイリング中に着ていた服とまったく同じ格好なのは、隆、雪に洋子の三人だった。

「まあ、これでもおかしくないよ、大丈夫だよ」

隆は、自分に言い聞かせながらつぶやいて、駅のほうに歩きだした。

皆も、隆の後について歩きだした。

これから、駅に行って、電車に乗って、3駅先のマザー牧場に遊びに行くのだった。

駅に着くと、駅前のロータリーにマザー牧場行きとペイントされたバスが停まっていた。

連休ということで駅から送迎バスが出ているようだった。

「マザー牧場に行くんですか?乗ってもいいですか?」

「どうぞ」

ルリ子が、バスの運転手さんに聞いたおかげで、電車に乗らなくても、送迎バスでマザー牧場まで連れて行ってもらえることになった。

「電車に乗らなくても行けて良かったね」

「本当ね。潮だらけの服装の隆と一緒に、電車に乗らなくても良くなって恥ずかしい思いをしなくて済むわ」

麻美が隆の方を見ながら、笑いながら答えた。

「クルージング先の町を歩いているヨットマンの服装なんて、皆こんなものだよ」

隆が言った。

「電車に乗っているのは、全員がヨットマンではないからね」

麻美は、隣りの席に腰かけてきた隆の体に、自分のバッグから出したエイトフォーを振りかけながら言った。

「洋子ちゃんも、これ、体にかけたほうが快適だと思うよ」

麻美は、後ろの席の洋子に、エイトフォーの瓶を手渡した。

羊の群れと海

連休ということもあり、マザー牧場は家族連れやカップルなど大混雑していた。

入り口で、入場券を購入して、ラッコの皆は、園内に入った。

「家族連れとか子どもとか多いな」

隆は言った。

マザー牧場は、子どものお客もいるだろうが、もっと大人のお客も多いだろうと思っていたのだった。

それが、園内に入ってみると、子どもの数のほうが大人より多い。

「ちょっと恥ずかしいな。大人だけのグループって、俺たちだけじゃないか」

「そんなことないわよ」

麻美は、佳代の手を引いて、園内の動物たちのところに行った。

羊やラマ、うさぎなどいろいろな動物たちが、麻美たちを出迎えてくれていた。

「かわいいね」

ルリ子は、ラマに顔を舐められて嬉しそうだ。

「麻美ちゃんのところにも行ったよ」

一匹のラマが、麻美の側に寄って来た。

「ファンデーションが付いちゃうよ」

麻美は、近づいてきたラマに顔をなめられながら言った。

ラマの顔に、麻美の顔に付いていたファンデーションの粉が付いてしまっている。

「取ってあげる」

佳代が、ラマの顔に付いたファンデーションを手でこすって取ってあげていた。

ラマは、ファンデーションを取ってもらっていることに、ではなく、佳代の手がラマの顔に触れるのをなでてもらっているものと勘違いしているみたいで、嬉しそうに、その佳代の手を舐めてくれていた。

「ねえ、見て。ルリちゃんったら追いかけっこしているよ」

麻美が、ルリ子のほうを見て言った。

ルリ子は、向こうの草原で羊の群れに追いかけられていた。

羊に追いつかれて、ルリ子の腕に触れられると、今度は、ルリ子が羊のことを追いかけていく。まるで鬼ごっこしているみたいだった。

「鬼ごっこしているみたいだな」

隆と雪が、麻美の横に歩いて来て言った。

「あ、どうしたの?そのソフトクリーム」

麻美は、二人がソフトクリームを食べているのに気づいた。

「暑いだもん」

「私も食べたい!」

佳代が言うと、

「後で、私たちも買いに行きましょう」

麻美が言った。

「海が見えるね」

マザー牧場は、丘の上にあって東京湾の海が一望できた。

「うちらのヨットも見えるね」

山と山の隙間から、ラッコやマリオネットが停泊している保田の漁港が見えていた。

「おーい!中野さん!」

佳代が海に向かって、叫んだ。

「さすがに、漁港の中野さんのところまでは、聞こえないだろう」

隆が、佳代が叫んでいるところを見て、笑った。

「さあ、中野さんたちも待っているだろうから、ヨットに戻りましょう」

麻美たち皆は、マザー牧場を後にして、保田の漁港に戻っていった。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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