Skip to content

セイルアップ!

1本を読もう

2本を読もう

3本を読もう

4本を読もう

5本を読もう

6本を読もう

7本を読もう

8本を読もう

9本を読もう

10本を読もう

11本を読もう

12本を読もう

13本を読もう

14本を読もう

15本を読もう

16本を読もう

17本を読もう

18本を読もう

19本を読もう

20本を読もう

21本を読もう

22本を読もう

23本を読もう

24本を読もう

25本を読もう

26本を読もう

27本を読もう

28本を読もう

29本を読もう

30本を読もう

この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第198回

斎藤智

暁のセイルが、ようやく大きく広がって開いた。

セイルが広がると、その大きなセイルいっぱいに風をはらんで力強く走り始めた。

「やっとセイルが上がったな」

「このヨットのセイルを上げるの大変」

普段、乗りなれないヨットなので、隆たちは、セイルを上げるだけで悪戦苦闘してしまった。

しかし、一度セイルが上がってしまうと、ぐんぐんとスピードを上げて暁は走っていく。

「速いな」

隆は言った。

暁のセイリングの走りに、一番喜んでいたのは雪だった。

「この船って、いったいどこに腰かけたらいいのかわからない」

逆に、一番暁に乗りなれないでいたのは麻美だった。

ヒールで大きく右に左に揺れる船上でうろうろしていた。

「麻美。こっちに来て、ここに座っていなよ」

隆に言われて、麻美は船尾のところに備え付けられた小さなベンチに腰掛けた。

一人掛けのベンチが二つ並んでいて、麻美の座っていないほうのベンチには隆が座っていた。

「なんだか、私だけ隆の横に座っていると、私だけヨットが上手く乗れずに、隆にめんどう見てもらっているみたい…」

麻美が言った。

「そんなことないよ、お似合いよ」

佳代が、麻美の横に行ってつぶやいた。

「佳代ちゃん、ここに座りなよ」

麻美は、佳代に言った。

体の小さな佳代は、麻美の腰かけている膝の間に座った。

「親子みたい」

三人の様子をみて、洋子が言った。

「親子って。麻美がお母さんで、佳代が娘。俺が佳代のお兄さんだろ?」

「ううん」

洋子が隆に首を横に大きく振った。

「もちろん麻美ちゃんがお母さん、隆さんはお父さん」

ルリ子が笑いながら言った。

「お父さんって、俺はそんなにおじさんか?」

「おじさんだよね」

麻美が即答した。

「私たちの年齢だったら、佳代ちゃんぐらいの子がいてもおかしくないんだよね」

隆たちと同い年の雪が舵を握りながら言った。

「まあ、そうかな」

麻美が、あまり考えずに雪に返事していた。

「え、待って。佳代ちゃんが私たちの子どもだったら、佳代ちゃんっていくつよ」

麻美は、少し考え直してから言いなおした。

「10才ぐらい」

「10才は、いくらなんだって若すぎでしょう」

麻美が佳代に言うと、麻美の膝の上の佳代は頷いた。

「とりあえず観音崎を目指せばいいのよね」

雪は、隆に目的地のコースを確認した。

「ああ、観音を越えてから、そのまま南下して三崎を目指そう」

隆が答えた。

「雪ちゃんって、その棒でもぜんぜん普通に操船できるのね」

麻美が、ティラーを握っている雪を見て言った。

「こっちのほうがやりやすいよ」

「私、たぶんダメだわ。ラッコのハンドルに慣れてしまっているから」

麻美が言った。

「麻美。車じゃないんだからハンドルって言うなよ。ステアリングだろう。それに棒じゃない、ティラーというんだ」

隆が言いなおした。

レース艇上でのお昼ごはん

お昼が近いので、麻美はキャビンに入ってお料理を始めた。

いつも船では、お料理はしない隆が今日は一緒だ。

麻美がデッキからキャビンの中に移動するときに、揺れる船上でよたよた歩いていたので、隆が後ろから支えながら、キャビンまで一緒についてきてくれたのだった。

「ほら、おばあさん。手もってやるからしっかり歩いて…」

「今、おばさん、じゃなくておばあさんって言ったでしょう」

隆は、麻美に頭を叩かれていた。

「なに。カレーってレトルトじゃないの?」

隆は、玉ねぎとか野菜が刻んだ状態で、タッパーの中に置いてあるのを見て言った。

「そうなの。だってまさか、暁のキャビンの中がこんなに何もないと思っていなかったんだもん」

麻美は答えた。

「それで、出航前にルリちゃんと一緒に、お料理しやすいように野菜とか全部切り刻んでおいたのよ」

麻美は言った。

「じゃあ、煮込もうか」

隆がカセットコンロに水を入れたお鍋を置いて、火を点けた。

ルリ子と香織は、お湯が沸いたら隆が入れやすいように野菜を並べていた。

佳代は、お肉を切っていた。

麻美は、やることがなく少し離れたソファに腰かけていた。

ソファといっても、暁のソファは、簡易的なベンチのようなソファだった。

「佳代ちゃん!ジブのセッティングして!」

デッキ上で舵を握っている雪が叫んでいた。

キャビンで肉を切っていた佳代は、顔を上げて外を見た。

「私、切っておくよ」

香織が佳代に言った。

「雪ちゃんが呼んでいるから、お肉は香織ちゃんに任せて、佳代ちゃんは外に行っておいで」

麻美に言われて、佳代はデッキに出て行った。

「お肉、ちょうだい」

隆は、切ったお肉を香織から受け取ると、お鍋に投入した。

野菜を入れて、順番に煮込んでいく。

「おいしそうなカレーの匂いがしてきた」

「お米のにおいも良いにおい!」

ルリ子が紙皿にお米をよそって、隆がその上にカレーをかけていく。

出来上がったカレーをデッキに出した。

「頂きましょう」

皆は、デッキでカレーを食べ始めた。

食べ始めたといっても、デッキにはちゃんとしたテーブルもソファもない。皆は、デッキ上に直接お皿を置いて、食べていた。

麻美がタッパーから福神漬を出して、皆のお皿に振り分けた。

「やっぱり、この船速いよね」

雪は、カレーを食べながら舵を操船していて、隆に言った。

「そうか」

「うん。だって、周りのすれ違うヨットを、ラッコに比べてあっという間に抜いていくよ」

「ラッコが遅すぎるのかもしれないけどな」

隆が言った。

「そうかもね。でもこのヨットは、このヨットで速いよ」

雪は、暁の操船がすっかり気に入ったようだった。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

Comments

Comments are closed.

こちらのページもよくご覧になられています

 

Widgets

Scroll to top