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この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。

クルージング教室物語

第209回

斎藤智

「遅くなりました」

麻美と隆が、ラッコのキャビンの中に入って来て言った。

時間は、もう夜中の12時をとっくに過ぎていた。

「お疲れ~」

皆は、麻美と隆に返事した。

「いやあ、麻美がちっとも仕事を終わりにさせてくれないもので」

隆は言った。それを聞いて、皆は大爆笑になっていた。

「え?」

「皆でずっと、隆は入ってきたら、ぜったいそれを言うだろうって話していたところなの」

洋子が隆に言った。

「隆さんの会社って、そんなにお仕事忙しいの?」

「そんなでもないよ」

隆は答えたが、

「けっこう忙しい。パソコン使ってやることが、細かいこといっぱいあるのよ」

麻美は答えた。

「そうなんだ」

「ねえ、夕食は食べた?」

麻美が皆に聞いた。

「食べた。ルリちゃんがカレーライス作ってくれたの」

「まだ、あるから食べる?」

佳代は、麻美にすすめた。

「さすがに、今夜はもう食べれないかな」

麻美は、佳代に返事した。

「カレーは、一日経ったほうがおいしいから、明日食べたいな」

「そうだね、あっためなおして頂きましょう」

麻美は、言った。

「いつでも出航はできるようになっているよ」

雪が隆に言った。

「そうなんだ。じゃあ、すぐ出ようか?そろそろ出ないと、明日の暗くなるまでに岡田港入れなくなってしまうだろうし」

隆が言って、皆は出航するため、デッキに出た。

麻美だけは、キャビンに残って、皆の荷物や台所の後片付けをしていた。

「こんばんは」

デッキで準備していた皆に隣りに舫っているヨットから声がかかった。

「あ、こんばんは」

どこのヨットだろうと思いながら、隆も挨拶を返した。

「あ、マリオネットさん」

雪が気づいて言った。

「これから、クルージングに出かけるのですか?」

隆は、マリオネットの中野さんに聞いた。

「ええ、せっかくの三連休ですから」

「どちらまで?」

「まだ、決めていないんですよ」

中野さんは答えた。

「ラッコさんはどちらまで?」

「大島の岡田港まで行ってこようと思っています」

「じゃ、うちもそうしようかな」

中野さんは、隆の返事を聞いて言った。

「三人しかいないけど」

中野さんが笑顔でつけ加えた。

「三人?大丈夫ですか?ナイトクルージングとかできますか」

隆は、少し心配そうに聞いた。

マリオネットは、中野さんとクルーの男性、それに香織とヨット教室同期の美幸だった。

この三人だけでのナイト航海は大丈夫かなと隆は思っていた。

お天気雨

「で、なに?隆は、それで黙って一緒に行こうって言って戻ってきたの?」

麻美は、隆に詰め寄った。

「え、うん」

「言わなかったの?三人だけでナイトはやめたほうがいいって」

「いや、でも、マリオネットはマリオネットで危険と思ったら、やめる判断するだろうし」

隆は、言った。

「はあ、それで隆は黙って帰ってきたの?」

麻美は、呆れたような表情で隆を見た。

「どうしたの?」

洋子が船尾のオーナーズルームに入って来て、聞いた。

「あ、ごめん。大きな声出してて。でもねえ、聞いてよ。洋子ちゃん」

麻美は、洋子に言った。

「マリオネットさん、今日のクルージングが三人だけなんですって!オーナーの中野さんに、なんだっけ、いつも乗ってるあのベテランのおじさん、それに美幸ちゃん」

「そうなんだ」

洋子は、麻美の話を黙って聞いている。

「たった三人だけで、夜じゅうずっと徹夜で航海するなんて、ぜったいに無理だと思わない?」

麻美の話は続いている。

「三人といっても、美幸ちゃんは、今年のクルージング教室で初めてヨットに乗り出したばかりなのよ。うちの香織ちゃんと同じに」

「そうだよね。実質、二人で走らせるみたいなものだよね」

「でしょ!それなのに、隆ったら、一緒に大島に行きましょうって愛想だけふりまいて帰ってきたのよ」

隆は、黙ってオーナーズルームのベッドに寝転がった。

「でも、隆さんも言えないよね。中野さんは、隆さんよりずっと年上だし、マリオネットさんは、今回は大島はやめて明日の朝、どこか近場に行けばなんて」

洋子が言った。

「そう、そうだろ!そうなんだよ、言えるわけないよな!」

洋子の言葉に、隆は嬉しそうにいきおいよく起き上がって答えた。

「言えません。で、それで、まあ、なんかあったら、そのときは仕方ないか。で、大島に行くんですか?それじゃ、一緒にランデブーで行きましょうって笑顔ふりまいて帰ってきたの」

麻美は、隆のことをにらんだ。

「まあ、マリオネットでなんか事故おきても、それはマリオネットのことで・・」

そこまで思わず口にして、麻美のほうを見上げると、こわい顔をしていた。

「なんて訳にはいかないよな。マリオネットも、ラッコも、同じ横浜マリーナ所属のヨットなわけで、仲間なのだから、そこは年上とか関係なしに、予定変更しましょうと言うべきで」

「わかってるんだったら、そうしたら」

麻美が隆に言った。

「はーい!」

隆は、麻美に元気よく大きな返事をして、またベッドに寝転んだ。

「隆!」

「はい!」

もう一度、麻美に呼ばれて、あわてて隆は起き上がると、

「ちょっと、マリオネットに行ってこようか」

隆は、洋子を誘って、オーナーズルームを出ていった。

洋子は、くすっと笑ってから、隆のあとを追いかけて、出ていった。

「洋子ちゃん、隆のことお願いね」

麻美は、洋子の背中に声をかけていた。

斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。

横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。

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