この度、横浜マリーナ会員の斎藤智さんが本誌「セーラーズブルー」にてヨットを題材にした小説を連載することとなりました。
クルージング教室物語
第38回
斎藤智
「今度の三連休はどこかに行こうか?」
隆は、デーセイリングに出かけたラッコの艇上で皆に言った。
来週の週末は、海の日のため、三連休だった。
せっかくの夏の三連休なので、ヨットでどこかにクルージングに行きたいと思っていたのだ。
東京湾内の横浜からだと、対岸の千葉、房総半島などが一泊ぐらいのクルージングにはうってつけの行き先だった。
「今度の8月、夏にも、伊豆七島にクルージングに行くんですよね」
洋子が隆に言った。
「ああ。お盆の夏休みには、一週間使ってのんびりと伊豆の島々を巡ってこよう。皆も、それがロングクルージング初体験になると思うから、そのためのクルージングのリハーサルを兼ねて、来週の三連休は、対岸の千葉にでも行って一泊してこようと思ったんだけど…」
隆が答えた。
「そんなこと急に決めても、皆だってそれぞれ予定があるでしょう」
麻美が言った。
「あたしは、予定は特に無いから、千葉クルージングに行ってみたい」
洋子が答えると
「あたしも予定ないから、千葉に行きたい」
佳代が同調して、結局、皆、来週の千葉クルージングに参加することになった。
「皆、若い女の子ばかりだというのに、連休にデートとかの予定は誰もないのかい」
すぐ側で、ラッコの乗員たちの会話を聞いていたマリオネットの中野さんが、ラッコの女性クルーたちのことをからかっていた。
「確かに。皆も、私も、誰も彼氏いないんですぅ」
洋子が苦笑いしながら、中野さんに答えていた。
「ラッコさんは、来週は千葉のどちらに行かれますか?」
中野さんは、隆に来週の予定を聞いた。
「千葉の保田あたりにでも行ってこようかなと思っています」
「保田か、いいな。うちも保田に行こうかな」
「それじゃ、ラッコとマリオネットで2艇一緒にランデブーで行きましょうか」
保田は、千葉、房総半島の内側、内房のちょうど真ん中あたりに位置している。千葉の東京湾側の海に面している小さな田舎町だ。
その町の角に小さな漁港がある。もともとは、漁師さんたちの漁船ばかりが停泊していた港だったが、東京や横浜からレジャーでやって来るヨットやボートのことも受け入れてくれるようになり、都心のレジャーボートが気軽に立ち寄れるクルージングスポットになっていた。
来週の海の日の三連休は、ラッコとマリオネットの2艇で千葉の保田まで行って、一泊して帰ってこようということになった。
保田は、隆にとってはクルーの頃からもう何十回も行っていて、行き慣れているクルージング先だった。
つい最近でも、3月、春にラッコで保田まで行き、一泊して帰って来ていた。そのときは、クルーの生徒さんたちは、まだラッコに乗っていなくて、麻美とたった二人だけの寂しいクルージングだった。
斎藤智さんの小説「クルージング教室物語」はいかがでしたか。
横浜マリーナでは、斎藤智さんの小説に出てくるような「大人のためのクルージングヨット教室」を開催しています。